Gainer(光文社)連載中「 CDレビュー」(毎月2枚紹介)
※雑誌発売終了後upします。
▼ Gainer - 2004.08.10 ▼
TIDE'S ARISING / MARK DE CLIVE LOWE ( COLUMBIA )
オーストリアから彗星のように現れ、瞬く間にロンドンのブロークン・ビーツ・シーンの中核的存在として知られるようになったマーク・ド・クライヴロウ。ファースト・アルバムが全世界リリースされた後も、キーボード奏者として数々のプロジェクトに客演し着実に実績を積み重ねてきた。そして、超人気コンピ『カフェ・デル・マー』に収録、アメリカの名門ハウス・レーベル、MAW RECORDSへのライセンス等の花々しい経歴を引っさげ、満を持してのセカンド・アルバムのリリースとなった。プロデュース、プログラム、作曲を手掛けるマルチ・クリエーターとして更に進化を遂げ、見事な作品を作り上げた。ジャズのバック・グラウンドをベースにしながらも、非常に今日的なアプローチで、オリジナリティー溢れる世界を構築。ブラック・ミュージックの影響を独自に解釈した近未来ファンクは、ラテンやアフロといったネイティヴな要素をも咀嚼しているという点で非常に新しいと言えよう。大衆性と先鋭性を兼ね備えた貴重な一枚。幅広いリスナーに支持される事だろう。
BRAZILIKA / V.A ( FAR OUT / COLUMBIA )
音楽トレンドの移り変わりの激しいロンドンで設立から早10年。DJ兼コレクターとしても有名なジョー・デイビスがレーベル・オーナーを勤めるFAR OUTは、現代のアンダーグラウンド・ミュージックとブラジル音楽をリンクさせる事で常に注目を集めてきた。そして、このFAR OUTの集大成とも言える10周年を記念したコンピレーションがリリースされる運びとなった。FAR OUTがゲスト・コンパイラーに迎えたのは、マスターズ・アット・ワークの一員として世界規模で活躍を続けるケニー・ドープ。ケニー自らが手掛けたREMIXの収録もさることながら、彼が得意とするハウス/ヒップ・ホップ的感覚でFAR OUT音源がセレクトされている辺りが実にユニークである。つまり、ブラジル音楽の新しい解釈が改めてプレゼンテーションされているのだ。勿論、ケニー自身もレアなブラジリアンのコレクターでもあるから、彼の思い入れも強く作用している筈。けれども、このトピックはジョーのケニーを起用するというアイデアの賜物だろう。唯一無二のブラジル・コンピの誕生だ。
▼ Gainer - 2004.07.10 ▼
新世代DJプロデューサーが放つ、本年度フューチャー・ジャズNO.1候補作!
SNAKES AND LADDERS / RAW DEAL ( STRAIGHT AHEAD )
20代前半でイギリスの名門レーベルTALKIN’ LOUDからデビューを果たし、一躍シーンの最前線へ踊り出したRAW DEAL。今年に入ってスイスのSTRAIGHT AHEADに移籍し、待望のセカンド・アルバムを発表した。テクノの影響を取り入れ、ブラジルのリズムとゴスペル風ヴォーカルをMIXした「EYE FLY」、70年代から活躍する伝説のサックス・プレーヤー、ARCHIE SHEPPのダンサブルなカバー「BLUES FOR BROTHER GEORGE JACKSON」、更にはソウルフルでディープ・ハウス的アプローチを見せる「FATHER」とキラー・チューンが目白押し。MASTERS AT WORK、KING BRITT、RAINER TRUBYといった世界のトップDJ達がこぞって絶賛するだけあって、既に本年度最高のフューチャー・ジャズとの呼び声も高い。ブロークン・ビーツが根強い人気を誇るロンドンのアンダーグラウンド・シーンで、オリジナリティーを追求してきた彼の面目躍如と言ったところだろうか。その疾走感も躍動感も新世代ならではのエネルギーに満ち溢れている。
COMPOSTの新提案コンピ。ブギーでレゲエなヒップ・ホップ&ファンク。
PARTY KELLER / V.A ( COMPOST )
フューチャー・ジャズを代表するレーベル、COMPOSTがユニークなコンピレーションをリリースする。オーナーのMICHAEL REINBOTHも強力にPUSHするコレクターDJのFLORIAN KELLER。彼がレジデントを務めるパーティー「PARTY KELLER」での個性的な選曲が人気を呼び、遂にCD化の運びとなったこの作品。それだけに、現場感覚に貫かれた楽しさが見事にパッケージされている。キュートなファンキー・レゲエにガールズ・ラップ。BEASTY BOYSの元ネタとして有名なGIORGIO MORODERの激レアなトラックまでが飛び出す等、ありそうでなかったそのセレクションは、ヨーロッパの音楽誌でも数多く取り上げられ高く評価されている。80年代テイストを程よく取り入れつつも、COMPOSTならではのスタイリッシュな感覚は決して失ってはいない。ジャズのセンスを活かし、ブギーなファンクもレゲエ的なヒップ・ホップもお洒落に聞かせる辺りが、FLORIAN&COMPOSTの凄い所だろう。7月号で紹介したINTUITといい、このパーティー・キラーといい独自路線を切り開くCOMPOSTがこの所元気だ。
▼ Gainer - 2004.06.10 ▼
世界最高峰のJAZZ DJ/クリエーター集団が、待望のMIX CDをリリース!
JAZZANOVA…MIXING / V.A
ニュー・シングル「LET YOUR HEART BE FREE」、REMIXシングル「DANCE THE DANCE」をたて続けにリリース。BLUE NOTE公式REMIXアルバムへの参加、そしてジャイルス・ピーターソン選曲の超人気コンピへの新曲提供等、今やノリに乗りまくっているJAZZANOVA。世界中のクラブから常にオファーが絶えない彼等が、待望のMIX CDをリリース。言うは易し、行うは難しのあらゆる音楽ジャンルを縦横無尽に交錯する華麗なそのMIXが、作品として遂にCD化された。HIP HOP、JAZZ、HOUSE、REGGAE、DUB、ELECTORO、SOUL、FUNKが違和感なく並列し、尚かつJAZZANOVAの個性を強く感じさせるセレクトは唯一無二のMIX。音のグラデーションとでも言うべき選曲の展開は、整合性と意外性を見事に兼ね備えている。又、そのエクレクティックなスタイルは、全ての音楽ファンを魅了する興味深い内容となっている。音楽をジャンルではなく、共通する一つのセンスでチョイスする楽しみ方をこのMIX CDは非常に判り易い形で提示してくれている。聴いて気持ちいい、問題作の登場だ。
天才は多作。複数の名義を使い分けるDOMUの最新ユニットが、デビュー!
ENTER THE UMOD / UMOD
ピカソにしろ、ウォーホルにしろ天才は多作だ。現在の音楽シーンで最も楽曲を量産している男、それは間違いなくこのDOMU。日本では、KYOTO JAZZ MASSIVEによるコンピ「CROSSBREED2」に収録されその名を広く知られるようになったが、サイド・プロジェクト、BAKURAのESPECIAL RECORDSからのリリースでもマニアから熱狂的な支持を受けている。昨年にはミュンヘンのレーベルJCRからRIMA名義でアルバムを発表。最近ではオランダのレーベルDELSINからYOTOKO名義でアルバムをリリース、そしてJAZZANOVAが主宰するベルリンのレーベルSONAR KOLLEKTIVから最新ユニット、UMODでデビューを果たす。その音楽性はJAZZANOVAが推すだけあって、サンプリングやコラージュを多様した先鋭的なエレクトリックなファンクに仕上がっている。これは紛れもなくアート。同時代を生きる才人の新作は、ダンサブルな現代芸術なのだ。DOMUは新たな境地を切り開いた。先鋭的であると同時に匿名的なサウンドは、音のインテリアとしても楽しめるに違いない。
▼ Gainer - 2004.05.10 ▼
あらゆるシーンで絶大な人気を誇るロイ・エアーズにはこんなに名曲が隠されていた
VIRGIN UBIQUITY / ROY AYERS ( BBE )
ジャズ・シーンのみならず、ヒップ・ホップやハウス・シーンでも絶大な支持を誇るヴィブラフォン奏者、ロイ・エアーズの未発表音源がリリースされた。70年代に活躍した伝説的なアーティストが再び脚光を浴びる事になったのが、80年代の後半。レア・グルーヴやアシッド・ジャズといった旧音源を再評価するムーブメントによってロイ・エアーズは俄然注目を集めた。その後もサンプリング・ソースのオリジネーターとしてのみならず、ニューヨリカン・ソウルや4HEROといった新世代のアーティストとのコラボレーションによって完全復活を果たし、今では世界中のジャズ・クラブやフェスティバルを精力的にサーキットしている。ロイ・エアーズの音楽はジャズをベースにしながらも、ソウルやディスコのエッセンスをふんだんに取り入れたクロスオーバーなブラック・ミュージック。ダンサブルなインストからメロウなヴォーカル曲までの全てがアーバンなアレンジで洗練された黒さに貫かれている。そんな彼が、こんなに良い曲を発表していなかっただなんて・・・。名曲に賞味期限はないのだ!
70年代の大御所ジャズ・ミュージシャンがこぞって参加。
彼らはユーロ・アンダーグラウンドでも貴重な存在だ。
INTUIT / INTUIT ( COMPOST )
本コラムでもお馴染みのコンポスト・レコードからの最新リリース。ここの所エレクトリック指向の強かったコンポストの新作は、ジャズやブラジリアンのフレーバーが大胆に導入されたネイティヴな音作りに回帰している。メロディー・ラインが重視され、バンドでの再現を意識したサウンドはニュー・ウェーヴ・リヴァイヴァルに湧くヨーロッパのアンダーグラウンド・シーンにおいても貴重な存在だ。中でも注目すべきは、アイアート・モレイラやフローラ・プリム、アンディ・ベイ、ダグ・カーンといった70年代の大御所ジャズ・ミュージシャンの参加だろう。これだけの面子が一枚のアルバムに揃って参加する事はかつてなかったし、しかもINTUITという若い世代のアーティストとのコラボレーションによって再び彼等が多くの人々に受け入れられるのは嬉しい限りだ。ブラジリアン・フュージョンやスピリチャル・ジャズとフューチャー・ジャズ/クロスオーバーの遭遇も、タイムリーにしてタイムレス。時代を越えた共演は、先達者を蘇らせ、後進に新しいイメージを与えた。勿論、良い曲満載!
▼ Gainer - 2004.04.10 ▼
ケビン・ヘッジの呼び掛けでハウスのビッグネームが一堂に集まった
KEEP HOPE ALIVE /
BRAZE PRESENTS UNDERGROUND DANCE ARTISTS UNITED FOR LIFE ( VICTOR )
ハウス・ミュージック界のビッグ・ネームが一同に介し、レコーディング・セッションを行った。アルバム「ナチュラル・ブレイズ」のヒットやMONDO GROSSOのREMIXでその名を知られるBLAZEのケヴィン・ヘッジの呼び掛けによって実現したこのプロジェクト。バーバラ・タッカー、ウルトラ・ナテ、バイロン・スティンギリー、ケニー・ボビアン、ジョイ・カードウェルといった面子の凄さもさる事ながら、その収録曲のクオリティーの高さに驚かされてしまう。先行12インチとして既にリリース済みの「WE ARE ONE」、「BE YOURSELF」は共にクラブで大ヒットした事も記憶に新しい。そして、それら以外の楽曲もBLAZEのプロデュースにより見事に演出されたヴォーカル・ハウスが目白押しなのだ。その美しさは、ソウル・ミュージックの歴史を踏襲した現代の黒人音楽界においても抜群の存在感を発揮する事だろう。希望への願いをテーマにしたこのアルバム。その収益は、ライフ・ビートというAIDSに対する意識の向上と予防策の促進を目的として発足した非営利団体へ寄付される。
かつては栄華を誇り貧困や犯罪に悩むデトロイト この街で作り上げられたプライベートなソウル
BLACK MAHOGANI / MOODY MAN ( PEACEFROG )
本誌でも昨年紹介したMOODY MANこと、KENNY DIXON JR.の新作がリリースされた。前作の耽美的なサイレンスはやや影を潜め、ジャズやファンクといったブラック・ミュージックのエッセンスを随所に散りばめたソウルフルな作品となっている。シカゴで産声をあげNYで脈々と受け継がれるハウスが、ソウルの一つの現在形であるとするなら、このMOODY MANのニュー・アルバムは、デトロイトに息付くテクノという音楽の持つソウルの後継的側面を象徴していると言っても過言ではない。BLAZEが取った‘連帯’という手法とは全く逆のベクトルで作られた作品が、現代ソウルのもう一つの代表格であるというのも興味深い。スモール・サークルの中で、気心のしれたミュージシャンとのセッション。そのプライベートで自己探究型の作風こそが、ソウルが失った悲哀や渾沌とした精神性を表現する上で重要な役割を果たしているような気がする。かつてモータウン・レーベルで栄華を誇った街、デトロイト。しかし現在、貧困と犯罪が大きな問題となっているこの街で、今も彼は音楽を作り続けている。
▼ Gainer - 2004.03.10 ▼
BLUE IMPRESSIONS~BLUE NOTE MIX BY DJ MITSU THE BEATS / V.A ( 東芝emi )
ジャズの老舗レーベル、BLUE NOTEが65周年を記念してユニークなタイトルを連 発している。まずは、仙台出身のトラック・メーカー、DJ MITSU THE BEATSによるBLUE NOTE音源のノン・ストップ・ミックス。GAGGLEというHIP HOPユニットのメンバーでもあるDJ MITSU THE BEATSは、昨年リリースしたソロ・アルバムがJAZZ系のDJからも高く評価されている。そんな彼がチョイスしたBLUE NOTEの名曲の数々が、 見事な配列&MIXによって非常にモダンな感覚でコンパイルされている。JAZZイコー ル旧譜みたいな先入観は全く意味を持たない。HIP HOP世代によって新たな視点で紹介されるBLUE NOTEは、実に新鮮で、同時にエバー・グリーンなストリートの匂いを漂わせている。DJ MITSU THE BEATSのセンスがもたらした新たなBLUE NOTEのスタイリ ッ シュなイメ−ジは、若者をJAZZに誘う大きなファクターに成り得るし、家具やファッ ションにこだわるニュー・ラグジャリー層にとっても最高のモチベーションを与えて くれるだろう。セレクト・ショップでの大ヒット間違いなし!
BLUE NOTE REVISITED / V.A ( BLUE NOTE )
こちらは、BLUE NOTE音源を世界のトップ・プロデューサーが再構築したREMIXア ルバム。MASTERS AT WORKのケニー・ドープ、4ヒーロー、マシュー・ハーバート、DJスピナ、マッドリブ、ジャザノバ、バグズ・イン・ジ・アティックといった錚々たるメンツがこの企画に参加している。本作のプロデューサーはノラ・ジョーンズのアルバムを世界で1300枚以上売り上げたBLUE NOTE NYのELI WOLFとエリック・トゥルファーズやサンジェルマンといった新世代のジャズ・アーティストを擁するBLUE NOTE FRANCEのNICHOLAS PFLUG。この強力なコンビが、世界からBLUE NOTEを愛し、同時に斬新な解釈で再構築できるプロデューサーを選別した。それぞれの楽曲には 、各プロデューサーの個性が色濃く反映されている。又、曲によってはヴォーカルが加えられる等して全く新しい曲に作り変えられている。これは、もはやREMIXアルバムではない。BLUE NOTEを敬愛して止まないアーティスト達によるトリビュート・アルバムなのだ。オリジナル曲と聴きくらべると更に楽しめる事だろう。
▼ Gainer - 2004.02.10 ▼
SEEK / BEANFIELD ( COMPOST / QUALITY! RECORDS )
KOOP、TRUBY TRIO、そしてKYOTO JAZZ MASSIVEが所属するドイツのフューチャー・ジャズ/クロスオーバーのトップ・レーベル、COMPOST RECORDSから待ちに待ったBEANFIELDの新作がリリースされた。前作まではレーベル・オーナーのマイケル・レインボースを含む3人組のユニットだったのだが、彼がレーベル運営に専念する為に脱退。KJMを世界的な成功に導いたエンジニアのヤン・クラウゼと、海外からの大物DJが数多くプレイし、ドイツで最も有名なジャズ・パーティーとなった「INTO SOMETHINユ」のレジデントDJ、マイケル・メッケの二人が新生BEANFIELDのメンバーとなった。さてこの最新作、マイケル・レインボースが強力にPUSHしているだけあって見事な仕上がりとなっている。エレクトリックな質感とアコースティックな要素がバランス良くブレンドされた、ジャジーでフォーキーなプログラムド・ファンク。そして、アルバム・トータルで楽しめるハイ・センスでスタイリッシュなクオリティー・ミュージック。北欧のジャミロクアイとの呼び声も高いアーネストの参加にも注目!
Dreamland / Lars Bartkuhn and his Passion Dance Orchestra ( NEEDS / INPARTMAINT )
以前、このコラムでもコンピレーションを紹介したフランクフルトのレーベル、NEEDSから初のアーティスト・アルバムがリリース。NYのハウス・シーンでは神格化されており、NEEDS関連の作品群の中でも最大のヒットを飛ばしたPASSION DANCE ORCHESTRAことラーズ・バートカンのオリジナル・フル・アルバムは、既に好調にセールスを伸ばしているとの事。暖かくて新しく、爽やかにして神秘的。インストなのにソウルフル。このオリジナリティーは注目されない筈がない。ディープなダンス・フロアー・フリークからカフェなんかでかかるおしゃれな音楽がちょっと気になり始めているビギナーまで幅広い層を魅了できる可能性を持つ、新型のハウス・ミュージック?それとも新世代フュージョン?これぞ、21世紀のポップ・ミュージック?この際ジャンルはなんだっていい。とにかく、気持ち良く、味わいの深い音楽なのだから。この一枚で生活の質が向上するような感覚が得られるのは、センスのいい家具を手に入れたり、お気に入りのブランドの新作に袖を通す時の気分に凄く似ている。
▼ Gainer - 2004.01.10 ▼
Antologia / Egberto Gismonti ( EMI / 592357 2 )
ブラジル音楽界の“奇才”エグベルト・ギスモンティーのベスト盤がリリースされた。そのアバンギャルドな音楽性から難解なイメージが先行し、実は希代のメロディー・メーカーであるという事実が見過ごされがちなギスモンティー。このCDでは改めて彼の才能を再認識する事ができるだろう。劇的なアレンジと大胆な構成。しかし、奏でられるメロディーはあくまで叙情的で民族調。過激さと美しさを兼ね備えた天才の偉業が凝縮されている。その両極をここまで密接に融合し、時代の変化による老朽化を寄せつけない作曲家は、層の厚いブラジル音楽界の中においても貴重だ。楽曲は発表された時代が古いものから順番に並べられているが、決して安易な曲順ではなく、その選曲はDJを唸らせる程の完成度の高さを持っている。ギスモンティーの普遍性と、選曲者のセンス(時代順だが、一枚のアルバムからの曲の取捨選択は行われている)が見事に一体化された非常に完成度の高いベスト・アルバム。一家に一枚、是非お持ち頂きたい。これは芸術、そして、音の世界遺産だから
Brazilian Rare Grooves / Dj Spinna ( TUBE / BD1003 )
昨年は、スティービー・ワンダーのカバーばかりを集めたコンピレーション『WONDER OF STEAVIE』で世界的なヒットを飛ばしたDJ SPINNA。そんなSPINNAがまた素晴らしいMIX CDを届けてくれた。なんと今回はSPINNAが紹介するレアなファンキーでソウルフルなブラジル音楽の数々。HIP HOPのDJにしてHOUSE系のREMIXを手掛けるだけあって流石にそのプレゼンテーションの手法は、実にオリジナル!クラブで通用するグルーヴィーな感覚で次から次へと繰り出されるキラー・チューンのオン・パレード。ブラジル音楽のコンピは世の中に数あれど、これ程ダンサブルで統一感のある作品はかつて無かった。しかも、MIX CDなのだ。ネタ物としてボサやサンバにはまったB-BOY達も、ラウンジ・マニア、ジャズ・フリーク、そして、ブラジル音楽がなんとなく好きな一般音楽リスナーも、誰もが楽しめる素晴らしい一枚。ポップなカバー・アートがその内容を物語っているかのよう(SPINNAの似顔絵が激似!)。ブラジル音楽をこよなく愛する彼も又、選曲の天才なのだ。
▼ Gainer - 2003.12.10 <メイド・イン・ロンドン 新MIX CD2選> ▼
Goya Music Presents... The Selector Series Vol. 2 Mixed By Dego / V.A. ( GOYA MUSIC )
ロンドンのアンダーグラウンドなミュージック・シーンで注目を集めるブロークン・ビーツ。複雑なリズムを持ちながらも、ダンサブルで近未来指向を持つサウンドが、新世代のブラック・ミュージックとして認知されつつある。そして、そのブロークン・ビーツ・シーンの最重要人物でもある4HEROのディーゴがMIX CDをリリースした。ブロークン・ビーツを軸にした流麗でファンキーな選曲は、大人向けのグルーヴに満ち溢れている。力強く逞しいリズムが全編を通して貫かれているのだが、ボ−カルやコード進行はアーバンでメロウだったりする。そして、そのミスマッチがディーゴの真骨頂だとも言える。漆黒のベルヴェトを連想させるディープな内容。同時に、今をときめくSWELL SESSIONやBAH SAMBAも収録し、ポップな側面も兼ねそなえている辺りにディーゴの懐の広さを感じずにはいられない。又、楽曲のセレクトや全体の統一感で自分の作品を使わずにその音楽感を表現できる彼のセンスにも脱帽。世界最高のDJの一人でもあるディーゴの”技”に触れて欲しい。
PATRICK FORGE 03 / V.A. ( Trust the DJ.com )
そのディーゴがレジデントDJを務めるパーティー「CO-OP」にもゲスト参加するパトリック・フォージも同時期にMIX CDをリリースする。先月紹介したDA LATAのメンバーでもあり、ロンドンの人気ラジオ番組「COSMIC JAM」のパーソナリティーでもあるパトリックのDJ MIXも非常にレベルが高い。ブロークン・ビーツは勿論の事、ディープ・ハウスにアフロ、ブラジリアン等を網羅し独自の世界を構築。音源も日本、フランス、英国、北欧、ドイツと世界各国から集められている。音楽ジャンルを見事に横断しながらも決して散漫な印象を与えないのは、PATRICKがDJとしてJAZZに一貫してこだわってきたからだろう。そのクロスオーバー感覚は、JAZZ DJ特有の自由な発想だからだ。ロンドンに根付く真のブラックネスを体感できるディーゴのMIX CDに対し、こちらは多種多様な人種が混在するロンドンのコスモポリタニズムが反映されたカラフルな内容となっている。ヒット曲も満載。2003年のベスト楽曲のコンピレーションだとも言えよう。
▼ Gainer - 2003.11.10 <芸術の秋 クオリティー・ミュージックの秋> ▼
Moods / Monday 満ちる ( QUALITY! RECORDS )
Monday満ちるの新作がリリースされる。実はこの作品、僕と彼女のリユニオンとなる記念すべき一枚。かつてMondayのマネージメントやプロデュースを手掛けた僕が、彼女の新作を僕が設立したレーベルQuality!Recordsから発売する事になったのだ。これは、宣伝ではない。レーベル・プロデューサーとしてではなく、音楽ジャーナリストとしてこのアルバムを紹介したいと思っている。実は、Monday自身が言うように最も彼女らしい作品となった今作。自由な音楽製作の環境で、信頼できるミュージシャンとの共同作業は、ナチュラルで同時に力強い出来栄えとなった。オーガニックなサウンド・プロダクションは、NYジャズの新鋭達によってバンド形式でレコーディングされている。又、Mondayのヴォーカルにも磨きがかかり、母性と透明感を兼ね備えたオリジナリティーは聴く者を虜にするだろう。秋に合う、深く美しいアルバムが誕生した。
Serious / Da Lata ( QUALITY! RECORDS )
今月はもう一枚も僕のレーベルからの作品を紹介させて頂きたい。こちらも自信を持って紹介できる最高のアルバム。クラブ系ブラジリアン・サウンドの大ヒット曲「Pra Manha」で知られるロンドンのユニット、Da Lataのニュー・アルバムが緊急リリース。トレード・マークでもあるブラジリアン・フレイヴァーをベースにアフリカ音楽やロンドンの最新トレンド、ブロークン・ビーツのエッセンスを大胆に導入したメロディアスでリズミカルな内容となっている。世界中でビーチ・パーティーの文化が盛り上がる中、またしてもDa Lataは多くの人々を癒し、同時に熱くする事だろう。これは、究極のリゾート・ミュージック。勿論、季節を選ばない極上のクオリティー・ミュージックでもある。ちなみに、日本盤のみの収録となる「Change」に注目!泣きながら踊れます。Da Lata節?哀愁漂うストリート・ソウルは、秋だからこそ聴きたい一曲。
▼ Gainer - 2003.10.10 <新世代フュージョン・フロム・ドイツ> ▼
Needs ( Not Wants ) a compilation / V.A ( インパートメント )
フランクフルトを拠点に活動するプロデューサー・チーム、NEEDS。彼らが自ら運営するレーベルのコンピレーションがこの度リリースされる事になった。既にNEEDSはダンス・フロアーではカルト的な人気を誇り、大物DJがこぞってヘビー・プレイする等して密かに注目を集めてきた。何でも、NYのハウス・シーンでは神格化されつつあるという。今までディープ・ハウスという言葉で括られて来たNEEDSだが、このアルバムによってレーベルの指向性が再認識される事になるだろう。反復されるリズムと心地良いグルーヴを持つ非常にエッセンシャルなダンス・ミュージックなのだが、全編を通して聴き手を飽きさせない、しかも繰り返し聞かせる内容は、豊かな音楽性を兼ね備えている事の証に他ならない。リスニング・テクノ、エレクトリック・ジャズ、アンビエント・ソウルが高次元でブレンドされた新世代フュージョン。歴史的名盤。必聴!
Vertikal / Meitz ( インパートメント )
一方、こちらはベルリン在住のプロデューサー/キーボーディスト、Meitzのデビュー・アルバム。JAZZANOVAが運営するレーベル、ソナー・コレクティヴから12インチをリリースし、クラブで話題となっていた彼のフル・アルバムが遂に完成した。インストを基調とするNEEDSとは一転して、こちらはヴォーカル曲を多数収録し、ポップなアプローチを見せている。アフロにブギー、ディスコにラテン、ジャズにファンクと様々なテイストを盛り込みながらもソウルフルな世界で統一されたカラーリングは、一般リスナーにも支持される可能性を秘めている。COMPOST RECORDSやJAZZANOVAの成功以降、良質な音楽が次々と産み出され続けているドイツだが、その多くが異種配合音楽=フュージョン的サウンドというのも興味深い。日本もフュージョンやクロスオーバー先進国というのは、やはり国民性に共通点が多いからなのだろうか・・・。
▼ Gainer - 2003.09.10 <大人の為のハイ・クオリティー・ソウル> ▼
CAN’T HOLD BACK / GEORG LEVIN ( SONAR COLLECTIV / PHENOMENO )
本誌連載当初より常にこだわり続けてきたコンセプト、『クオリティー・ミュージック』。ダンサブルにしてリスニング対応。ライフ・スタイルやファッションにこだわる人々にとって、最も適した質の高いスタイリッシュな音楽。そんなクオリティー・ミュージックの決定盤とも言えるアルバムがリリースされた。ドイツはベルリンのDJ/クリエーター集団JAZZANOVAがプロデュースするレーベル“ソナー・コレクティヴ”の新男性ヴォーカリスト、ジョージ・ラビンのデビュー・アルバムは本年度のベスト・クラブ系ソウルの呼び声も高い。白人特有のクールなファンクネスとJAZZANOVAファミリーならではのハイ・センス。スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンや元スタイル・カウンシルのポール・ウェラーを彷佛とさせる楽曲もありポップ/ロック・ファンにも受け入れられるポテンシャルを持っている。超大型新人の登場だ。
HOXTON POPSTAR / VICTOR DAVIES ( COLUMBIA )
一方、セカンド・アルバムとなるビクター・デイビス。前作はクラブ・シーンからじわじわと人気を獲得していった彼だが、コロンビア・インターナショナルのトップ・プライオリティー・アーティストとして強力なプッシュもあり、全国のラジオ局でのパワー・プレイや店頭でのディスプレイで既に御存知の読者も多い筈。ダンス・ミュージックとしてのグルーヴをサウンドのボトムにしっかりと据えながらも、リスナーを限定しないポピュラリティーとブラック・ミュージックの王道とも言えるメロウな世界観で新たなファンを獲得しつつある。しかし、その成長は決してダンス・フロアーとの決別ではなく、クラブ・シーンの先見性を改めて世に知らしめる事となった。DJや真のミュージック・ラバー達は何年も前から彼をサポートしてきたからだ。これぞ、クオリティー・ソウル。親しみ易いが軽くない。新しくて懐かしい。大人の為のソウルなのだ。
▼ Gainer - 2003.08.10 <安心して聴ける。レアなリミックス・アルバム> ▼
NEW PERSPECTIVES / BREAK REFORM ( VILLAGE AGAIN )
「リミックス・アルバムはどうも・・・」という人は多いんじゃないだろうか。実は僕も苦手な一人。そもそも、リミックスとはオリジナル曲をリミキサーに再アレンジを依頼し、ダンス・フロアーでのヒットや違うマーケットでの認知を狙う事を目的に作られる。そして、文字通り、リミックスを集めてアルバムとしてのヴォリュームを持たせたものがリミックス・アルバムとなる。そもそもDJ達はリミックスをアナログで欲しがるし、サウンドにばらつきがあり、鮮度の低いリミックス・アルバムは人気がない。
 しかし、このBREAK REFORMのリミックス・アルバムは違う。もともと、彼等はヒップ・ホップやジャズの影響を受けたリスニング志向のサウンド・クリエーター。ある種競合する作家にリミックスを発注し、アルバムに統一感を持たせている。しかも新曲入り!ニュー・アルバムのように聴けるレアな一枚。
LOVE X LOVE WHO NEEDS LOVE REMIXIES / INCOGNITO ( PONY CANYON )
一方こちらのINCOGNITOの為のリミックス集は、サウンドにヴァリエーションがあるのに、一枚を通して聴かせる内容になっている。そこには、明確なコンセプトが存在し、単なるリミックスの寄せ集めにならない「意志」が感じられるからだ。サクセスしてゆく過程でコアなファンを失う事が多いクラブ・ミュージックだが、INCOGNITOはその例に当てはまらないアーティストだと言えるだろう。リーダーのブルーイは、フロアーの動向を常に察知し新しい感覚をオリジナル作品に忍ばせて来たし、時にその大胆なリミキサーのチョイスで玄人をも驚かせ、INCOGNITOからエッジなイメージを失わせなかった。
  そして今回、彼が召集したリミキサーはなんと日本人クリエーター。外国人も3組参加しているが、いずれも日本で人気の高いアーティスト。つまり、これは日本のジャズ/ハウス系クリエーターのショーケースでもあるのだ。
▼ Gainer - 2003.07.10 <この夏マストなラテン&ブラジリアン・ミュージック> ▼
THE VENEZUELAN ZINGASON VOL.1 / LOS AMIGOS INVISIBLE
NYのタワー・レコードに売り込んだたった20枚のCDが、元トーキング・ヘッズのデビッド・バーンの目に止まり、彼のレーベルLUAKA BOPと契約成立。3枚目のアルバムがなんとグラミー賞にノミネートされ、世界中から注目を集める事となったベネズエラ出身のラテン・バンド、LOS AMIGOS INVISIBLEのニュー・アルバムがリリースされた。なんとプロデュースをあのマスターズ・アット・ワークが担当。ソウルにファンク、ラウンジやボサの要素をブレンドしたLOS AMIGOSならではの軽快なラテン・サウンドに、MAWのハウス・フィーリングが加味されオリジナリティー溢れる作品が完成した。とにかく、ご機嫌なナンバーのオン・パレード!曲順も実に聴かせる巧妙な展開。かけっ放しが気持ちいい!!昼下がりの海岸沿いのドライブ、もしくはビーチでの日光浴にもってこいのアルバム。この夏、個人的にも一押しの超強力盤です。
JAZZINHO / JAZZINHO
日本でも人気のブラジリアン・ユニット、DA LATAやKYOTO JAZZ MASSIVEへのゲスト参加で一躍脚光を浴びた女性ヴォーカリストGUIDA DE PALMAが結成した新ユニット、JAZZINHO。JAZZやR&Bのテイストを密かに忍ばせながらも、あくまでダンス・フロアーを通過したブラジリアン・ミュージックにこだわる音作りは、これ又、DA LATAやSMOKE CITYで活躍するCHRISTIANFRANKの仕業。彼が共同プロデューサーとしてこのアルバムに関わっているのです。ナチュラルなボサ・ノヴァもいいけど、やっぱり踊れる音楽を判っている人が作ったボサがもっといい。踊らなくてもいいんです。でも、グルーヴィーなボサの方がより気持ちいい!そう、このアルバムはクラブを狙って作られた訳ではない。でも踊る事の気持ち良さを知ってる人が聴いて楽しめるアルバム。つまり、遊び心のある大人がチェックすべきボサ・ノヴァなのです。
▼ Gainer - 2003.06.10 <伝統と革新のデトロイト・ソウル&デトロイト・テクノ> ▼
SUBJECT / DWELE ( VIRGIN )
かつてモータウン・レコードの存在で一世を風靡した都市、デトロイト。現在は最先端のテクノを量産する街として世界中から注目を集めているが、今もブラック・ミュージックの伝統は脈々と受け継がれている。3月号で紹介したジャズ・アルバム『DETOROIT EXPERIMENT』に続き、またもや意外な一枚がリリースされた。それは、DWELEの『SUBJECT』。JAY DEEやSLAM VILLAGE等のヒップ・ホップ系アーティストとの共演で一躍脚光を集めたシンガーのデビュー・アルバムとなる一枚。アルバム・カバーに象徴されるモダンでスタイリッシュなR&B。全編を通して貫かれるジャジーなテイストとシルキーなDEWELEのヴォーカルは絶品!ジャズDJ、GILLES PETERSONが自身のコンピに収録した事で有名になった「ANGEL」も収録。D’ANGELOやDONNIEに続く男性ソウル・シンガーのホープ。ゲイナー読者に、激オススメです。
SILENCE IN THE SECRET GARDEN / MOODYMANN ( PEACEFROG / HOSTESS )
一方こちらは、限りなくブラックに近いテクノ、いやブラック・ミュージックとしてのテクノ、MOODYMANNの新作。黒い。ヤバイ。中毒性の高い音楽。真のアンダーグラウンド・ミュージック。ハウス、ファンク、ジャズ、フュージョン、エレクトロ・・・。全てをごった煮にしたテクノ。いや、ブラック・ミュージック。ざらついた質感を持つダーティーなリズムは、デトロイトのダーク・サイド、そう、ゲットーとしての暗部をイメージさせるリアリティーを内包しているし、崇高でメランコリックなコード進行はデトロイトに点在する教会で流れるゴスペルが持つスピリチャルな響きを連想させる。派手なメロディーもなければ、キャチーなリフもない。それでも僕達がMOODYMANNの音楽に惹かれるのは、彼のサウンドに潜む本質的な官能性なのだと思う。記号としてのセクシーさではなく、感覚的なエロス。マニア向けのディープな一枚。